大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)163号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  取消事由(1)について

第一引用例の記載内容が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第四号証(本願考案の昭和五五年六月二三日付手続補正書)によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲は、無端状チエン(6)の捲回張設につき、「無端状チエン(6)を対応する駆動ホイール(21)と従動ホイール(4)との間へ交互に一連に捲回張設し」と記載していることが認められるが、右甲第四号証及び成立に争いのない甲第三号証(本願考案の公告公報)によるも、右記載を原告主張のように「無端状チエン(6)を対応する駆動ホイール(21)と従動ホイール(4)との間へチエンのピンを各ホイールの軸と平行に向けて捲回張設し」と限定して解釈すべき根拠を見出すことはできない。右甲第三号証の第四図も本願考案の一実施例にすぎないから、右図面の記載から直ちに右のような解釈を導くことは困難であり、かえつて同号証の第三図にはピンとホイールの軸が垂直になる形でチエンが捲回されている実施例が示されているのである(原告は右第三図は製図ミスであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。)したがつて、本願考案においてはホイールに対するチエンの捲回方式、即ちチエンを構成するピンとホイールの軸の関係については特に構成上の限定はないものと認めざるを得ない。

そうであれば、第一引用例に「無端状チエンを対応する駆動ホイールと従動ホイールとの間へ交互に一連に捲回張設」する構成が記載されていることが当事者間に争いがない以上、成立に争いのない甲第六号証(第一引用例)によつて認められるようにその第一六図及び第一七図に原告主張のようにチエンのピンをホイールの軸に垂直方向(半径方向)に向けてチエンをホイールに捲回張設する構成が示されているとはいえ、本願考案装置と第一引用例装置におけるホイールに対するチエンの捲回張設の構成に差はないものというべきである。したがつて、その駆動方式にも差がないというべきであり、両装置のその余の一致点が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがないから、両者は別種類の複数段チエーン駆動装置であるということはできない。

三  取消事由(2)について

第二引用例記載内容が「圧縮バネの押圧力を調節する手段を設けてなる」との部分を除くその余の部分が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。前掲甲第三号証(本願考案の公告公報)の一頁二欄一三行ないし一九行、二頁三欄三〇行ないし四欄六行、二頁四欄四三行ないし三頁六欄二行の各記載、添付の第三図(別紙図面(一))及び甲第四号証(本願考案の手続補正書)の二頁の記載によれば、本願考案と第一引用例の相違点(ⅱ)に関連する本願考案のテンシヨン装置(5)構成の特徴は、各従動ホイール(4)に設けられたバネ(53)が同ホイールを駆動ホイール(21)から離間する方向に使用することにより、運転中に生ずる各段におけるチエンの張力変動による緩みを吸収して取除くとともに、バネ(53)を調節軸(55)により押出し調整することでバネの作用する基準位置を変更してバネの強弱を調節することによつてチエンの張りに対応し得ることにあり、バネの自然長の伸びに対しては主として右の押出し調整により対処することが可能であることが認められる。

これに対し成立に争いのない甲第七号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、別紙図面(二)に示された張り装置(チエンを緊張させる張り装置)につき、「張り装置は以下の構成とすることが望ましい。軸(17)のハブ(55)に軸承した偏心ホイール(54)を備えるのがよい。スプロケツト(6)はホイール(54)の周囲縁(56)に軸受されて、周囲縁(56)の回りを回転する。ピン(57)が図中(58)で示すとおり各ホイール(54)に設けられている。ピン(57)の端部には図中(59)で示すとおり張りロツド(60)が連結されている。張りロツド(60)は室(1)の長手方向に延び、型鋼(19)を貫通している。当り(62)が張りロツド(60)の上に設けられ、バネ(63)が当り(62)と張りねじ(64)との間で張りロツド(60)に設けられている。張りねじ(64)には型鋼(19)に取付けられたナツト(65)に合わせてねじ面が形成されている。スプロケツト(6)の張りを調節するために、張りねじ(64)を回すと、スプロケツト(6)はバネ(63)に押されて軸(17)の回りを回動した位置に移り、リンク(4)によつて形成したチエンを張る。」との記載(三頁左欄二行ないし二四行)があることが認められる。この記載によれば、複数段チエン駆動装置である第二引用例装置には従動ホイールであるスプロケツトを備えたホイール(54)とフレームである型鋼(19)との間にバネ(63)が設けられ、このバネ(63)を張りねじ(64)の回動調節により押圧することによつて右ホイール(54)を軸の回りに回動せしめ、チエンをバネの押圧前に比し緊張することができるとする構成が明記されており、この構成は各従動ホイールに設けられていることが認められる。

そうであれば、審決が第二引用例装置について「複数段チエン駆動装置において従動ホイールとフレームとの間に圧縮バネを配備するとともにその圧縮バネの押圧力を調節する手段を有している。」と認定したことに誤りはなく、右構成によれば、本願考案同様第二引用例装置の張り装置は、バネの作用によりチエン運転中での張力変動を吸収して取除くとともに、バネの押出し調整によりバネの作用する基準位置を変更してチエンの張りに対応し得るものと認めることができる。そして、この場合バネの押出しにより従動ホイールが偏心回動しても、同ホイールは駆動ホイールに対して離間する方向に変位し、その結果チエンの緊張効果を達することができるから、第二引用例装置の張り装置はチエンの自然長の伸びにも対応し得るものということができ、その効果において本願考案との間に顕著な差を認めるに足りる証拠はない。

かように、本願考案と第一引用例との相違点(ⅱ)の構成は本願考案装置同様の複数段チエン駆動装置である第二引用例装置に示されており、同じく複数段チエン駆動装置である第一引用例装置のバネ装置に右構成を設けることに格別困難であるとする理由を見出すことはできない。したがつて、本願考案が第一及び第二引用例の各記載からきわめて容易になし得るとした審決の判断に誤りはない。

四  よつて、本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

駆動装置(23)に連繋した駆動軸(21a)上に駆動ホイール(21)を上下に複数取付け、各駆動ホイール(21)との対向位置には夫々複数のフレーム(3)を水平に固定し、各フレーム(3)には駆動軸(21a)の方向に向けてガイド枠(32)を取付け、各ガイド枠(32)へスライド枠(41)を摺動自由に係合して、各スライド枠(41)に従動ホイール(4)を回転自由に軸承し無端状チエン(6)を対応する駆動ホイール(21)と従動ホイール(4)との間へ交互に一連に捲回張設し、各従動ホイール(4)のスライド枠(41)とフレーム(3)との間にバネ(53)を配備して該バネ(53)をフレーム(3)に設けた調節軸(55)により押出し自由に構成した複数段チエン駆動装置。

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